【液状化のおそれがある地盤】基準別の変遷。構造設計一級建築士による比較

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かめてつ
構造設計一級建築士のかめてつです。

3つの基準の液状化判定がどのように変わってきたかのまとめです。

  • 建築物の構造関係技術基準解説書
  • 建築基礎構造設計指針
  • 建築構造設計指針

建築物の構造関係技術基準解説書

著者名:国土交通省住宅局建築指導課,&7

「黄色本」と呼ばれ、全国の構造設計者が最もよく見る書籍の一つです。耐震偽装問題後にまとめられた2007年版、2015年版と2020年版の三世代の記載内容は次のとおりです。

2007年版

地震時に液状化のおそれのある地盤は、概ね次のイからニまでに該当するような砂質地盤である。

イ 地表面から20m以内の深さにあること

ロ 砂質土で粒径が比較的均一な中粒砂等からなること

ハ 地下水で飽和していること

ニ N値が概ね15以下であること

引用:建築物の構造関係技術基準解説書 2007年版(P.513)

2015年版

地震時に液状化のおそれのある地盤は、概ね次のイからニまでに該当するような砂質地盤である。

イ 地表面から20m以内の深さにあること

ロ 砂質土で粒径が比較的均一な中粒砂等からなること

ハ 地下水で飽和していること

ニ N値が概ね15以下であること

引用:建築物の構造関係技術基準解説書 2015年版(P.553)

2020年版

地震時に液状化のおそれのある地盤は、概ね次のイからニまでに該当するような砂質地盤である。

イ 地表面から20m以内の深さにあること

ロ 砂質土で粒径が比較的均一な中粒砂等からなること

ハ 地下水で飽和していること

ニ N値が概ね15以下であること

引用:建築物の構造関係技術基準解説書 2020年版(P.562)

考察

比較した三世代では記載内容に変わりはありませんでした。

2011年の東北地方太平洋沖地震の際には液状化が多く取りざたされましたが、その後改定された2015年版において何も変化がなかったことは興味深いところです。

法とほぼ同等の位置づけにされる黄色本だから故に記載内容を変更しづらかったといったところでしょうか。(変更すると既存建築物が既存不適格になるおそれがあるので)

今後の改定においても注視する必要がありそうです。

建築基礎構造設計指針

著者名:日本建築学会

略して「基礎指針」と呼ばれ、私の担当案件では基本的にこの書籍をもとに液状化判定をしています。長らく君臨した2001年版と2019年版の記述内容は次のとおりです。

2001年版

液状化判定を行う必要がある飽和土層は,一般に地表面から20m程度以浅の沖積層で,考慮すべき土の種類は,細粒分含有率が35%以下の土とする.ただし,埋立地盤など人工造成地盤では,細粒分含有率が35%以上の低塑性シルト,液性限界に近い含水比を持ったシルトなどが液状化した事例も報告されているので,粘土分(0.005mm以下の粒径を持つ土粒子)含有率が10%以下,または塑性指数が15%以下の埋立あるいは盛土地盤については液状化の検討を行う.細粒土を含む礫や透水性の低い土層に囲まれた礫は液状化の可能性が否定できないので,そのような場合にも液状化の検討を行う.

引用:建築基礎構造設計指針 2001年版(P.62)

※着色部はかめてつによる。

2019年版

液状化判定を行う必要がある飽和土層は,一般に地表面から20m程度以浅の土層で,考慮すべき土の種類は,細粒分含有率が35%以下の土とする.ただし,埋立地盤等の造成地盤で地表面から20m程度以深まで連続している場合には、造成地盤の下端まで以下の(2)の手順などにより液状化判定を行う必要がある.また、埋立地盤等の造成地盤では,細粒分含有率が35%以上の低塑性シルト,液性限界に近い含水比を持ったシルトなどが液状化した事例も報告されているので,粘土分(0.005mm以下の粒径を持つ土粒子)含有率が10%以下,または塑性指数が15%以下の埋立地盤あるいは盛土地盤については液状化の検討を行う.ただし、20m以深に関しては,(2)の液状化危険度予測の精度が悪くなるので,地盤応答解析を用いることが推奨される.また、細粒分を含む礫や透水性の低い土層に囲まれた礫,洪積層でもN値が小さな土層では液状化の可能性が否定できないので,そのような場合にも液状化の検討を行う.

引用:建築基礎構造設計指針 2019年版(P.50)

※着色部はかめてつによる。

考察

2019年版の赤文字が2010年版から主な変更点です。

着目すべきは、対象土層として洪積層が含まれたこと、条件によっては地表面から20m以深でも対象になる可能性があること、でしょう。洪積層だからということで無条件で対象外としていた人は要注意です。

20m以深の検討に推奨されている「地盤応答解析」とやらはサラリーマン構造設計一級建築士にもできるものなのでしょうか。やりかたを知らない私はまだまだ精進が必要なようです。

建築構造設計指針

著者名:東京都建築士事務所協会

「オレンジ本」と呼ばれる本書籍は、主に関東エリアで多く参照されますが、参考文献として見ることも多いので比較してみます。対象は2010年版と2019年版です。

2010年版

地震時に液状化の恐れのある地盤とは、概ね次の(1)から(4)までに該当するような砂質地盤をいう。

(1) 地表面から20m程度以浅の沖積層で、細粒分含有率が35%以下であること

(2) 砂質土で粒径が比較的均一な中粒砂等からなること

(3) 地下水で飽和していること

(4) N値が概ね15以下であること

引用:建築構造設計指針 2010年版(P.515)

2019年版

地震時に液状化する恐れのある地盤は概ね以下に該当するような地盤である。

①地表面から20m程度以浅に位置

②砂質土で細粒分含有率が35%以下

③地下水位以下にあり水で飽和している

④N値が概ね15以下であること

引用:建築構造設計指針 2019年版(P.425)

考察

2010年版では対象層として限定されていた沖積層が2019年版ではなくなっていることは、基礎指針に引っ張られて改定されたように思います。

黄色本との違いは「砂質土で細粒分含有率が35%以下」というところのみです。

まとめ

3基準を安全側に包絡した液状化の恐れの地盤は下記のようになります。(ほぼ基礎指針です)

  • 地表面から20m以内の深さ(ただし、造成地盤が20m以深まで連続する場合はその下端まで)
  • 細粒分含有率が35%以下の土層
  • 粘土分含有率が10%以下、又は塑性指数が15%以下の埋立地盤あるいは盛土地盤
  • 洪積層でもN値が小さい場合

黄色本やオレンジ本に記載されている「地下水で飽和していること」「N値が概ね15以下であること」については、基準のいいとこ取りにならないように採否には注意が必要です。